放牧地の杉エリアの野焼きをしました《牛は火?煙?が好き?》

薫る野牧場

普段牛を放牧している放牧地の整備は、通年行っている作業の一つです。今日は天気も良かったので、放牧地の中でも唯一の杉林のエリアの野焼きを行いました。野焼きの流れを牛の様子と共にレポート。

牛と共にといっても、牛が野焼きするのではありませんが、野焼きをしていると、いつも牛が近寄ってきます。人ではなく、火にです。その習性は明らかになっていませんが、なにか訳があるのでしょうか。

野焼きのながれ

①天気予報の確認

野焼きをする前に最も大事なことは、天気を確認すること。

特に大事なポイントは、前日雨が降っていないか、風が強く吹かないかの2点。

前日まで雨が降っていてしまうと、草や木が濡れ、燃えるのに非常に時間がかかります。今日は昨日の午後まで雨が降っていましたが、止んで晴れが続いているという状態。よく燃えるわけではありませんが、そこそこ燃えるかなという感じです。

また、風もまた重要。

風が強いと、周りの木や葉に火が燃え移り、山火事を発生させる危険性が高まります。山なので強風が吹きやすく、風向きも変わりやすいので細心の注意が求められます。

日本では年間千件以上の山火事が起きています。その多くの原因は焚火や火入れです。

②最寄りの消防署へ許可を取りに

家庭から出される廃棄物を燃やす「野焼き」は法律により原則禁止となっています

罰則も定められていて、5年以下の懲役、1,000万円以下の罰金のいずれか、または両方が科せれられます。(廃掃法第25条)

しかし、農業を営む上で必要な「野焼き」は例外的に認められています
勿論申請が必要で、管轄する消防署か分署に、「火災とまぎらわしい煙や火炎が発するおそれのある行為を行います」という届出を行います。申請書類には個人情報やその目的、野焼きを行う地番を記入し、野焼きを行う際には毎回消防署に電話して通知する必要があります。

③道具の準備

野焼きに使うのはこの3つの道具のみ。
熊手で草を集め、バーナーで火を着火し、終わったらジョウロで火の始末をします。

④燃やす

今日は放牧地の林エリアの野焼き。ここには多くの杉の木が植わっています。なのでここには多くの杉の葉が地面に堆積し、覆いつくします。びっしりと。

ここもほかの放牧地と同じように芝などの草を生やしたいのですが、植わっている樹も多く地面まで日光が届きにくいため、杉の木以外の植物があまりよく育っていません。一昨年、ある程度間伐を行ったのですが、それでも地面に草や枝が堆積して植物が育たないので、定期的に野焼きを行っているわけです。

野焼きを行い続けていくと、このエリアもすっきりしてきて少しずつ草も生えてきています。様々な植物が混在する明るい林になり、牛にとっても過ごしやすい場所になればと思いながら作業を行っています。

ここは唯一、日中でも常時日陰のある貴重なエリアです。
岩手県出身の牛たちは、神奈川の暑い夏をここで凌いでいるといっても過言ではありません。

⑤火を消す

これがとても重要。火は最後にしっかり消します。

少しでも火が残っていたりすると、強風が吹いたり、発火しやすい草が飛んできたりするとすぐさま発火し、周りの草や木に燃え移るリスクになってしまう為です。乾燥した季節・風の強い日は注意が必要です。

中洞牧場の中洞正氏も「火はこわいぞ」とよく言っていました。
中洞さんがまだ幼いころ、岩手県岩泉町の近辺の山林で大規模な山火事があったそうで、その火は何日も収まらず、火事の様子も間近で見たようです。中洞さんが薫る野牧場に訪れた際に、野焼きは気をつけろと強く言っていたことを思い出しながら作業しています。

牛は火?煙?が好きかもしれないはなし

すみれは野焼きを始めるとすぐに来る。こいつはそもそも人が好きなんだろう

野焼きをしていると牛が寄ってきます。海外の文献を漁ればこの事象を解明している論文に出会えるかもしれませんが、検索してもなかなか出てこない話です。「牛、煙」としても燻製の記事しか出てきません。
この現象にまつわる説が2つあります

説①煙で体に寄り付くダニなどの虫を落とす?

牛の背中に降り積もる塵。近くにいたことがよくわかる

牛の身体には色んな虫がついたりします。その一つが、ダニ。
大野山にはマダニが大量に生息しています。放置されているボサボサになっている草地が多いことも、その原因の一つです。牛を放牧し、ボサボサな草地が減ると、マダニが好んで生息するボサボサな草地も減り、おのずと生息数も減るはずだったのですが、まだいます。今はダニ除けの薬を牛に塗り対策しています。

そんなマダニがつかないように、もしくはついた虫を落とすために火に近づいているという説が一つです。害虫駆除や虫よけに煙が使われますが、それと同様の効果です。

説②そもそも暖かいから

近付き過ぎた牛の図

牛の言葉を聞いたわけではありませんが、単純に暖かそうです。燃やしている最中は本当に離れませんし、「いや、絶対熱いでしょ!」と牛を追い払いたくなるくらい火の近くに寄って行ったりします。

牛は年中放牧されています。春や秋はいいですが、寒い日が続く冬などは、少しでも温まりたいですよね。長い時間寒い外を歩いた後に暖房の利いたお店に入ると、心の髄から温まりますよね。牛とはいえど、それと似たような効果が無いとは思えません。

杉林エリアは実は神聖な場所

ここには、「古宮」というお宮があります。

古宮さんは昨年台風の被害に遭い、この台座は応急処置的なもの

山北町共和地域で一番大きな神社、「神明社」は大昔、ここにあったそうです。それを地域の人たちが今の共和地域高杉という場所に移設したのですが、その時に神様が「ここから動きたくない」と言ったらしく、そのためにかつて神明社があった場所に「古宮」を残し、神様がここにいられるようにしたとのことです。地元のかたは「古宮さん」と呼び、毎年お祭りの日にはお供えと、飾りが施されます。

神明社の神様にとっての、別荘的な場所がここにあるのです。今風に言うと、「二拠点居住」的な。

牛がいたずらしないように、この古宮は放牧地の外にあります。
道路から柵がくぼんでいる所にあるので、牧場に来られた際は要チェックです。

今日のまとめ

枯れ葉をかき分け生えてきた植物

少しの油断が火事の元になりますので注意が必要です。野焼きは牛とともに整備してきた放牧地も失ってしまう危険性が伴う作業です。古宮さんの神通力に頼らないように、火の処理は人間がきっちり行わなければなりません。

今は植生も豊かではなく、少し暗い杉林ですが、これから少しずつこの杉林エリアが変わっていくのが非常に楽しみです。多様な植物が混在する、牛にとって居心地が良いような場所を作っていきたいと思います。

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